超加工食品と肥満・健康障害

2023年06月19日 07:33

超加工食品とは

「わたしそんなに食べていないんです」

肥満外来に訪れるBMI35超の高度肥満の患者さんでも、このようにおしゃる方が少なくありません。

私の前で本心を隠しているのではなく、知らないうちに食べてしまっているご自分に気づいておられないのでしょう。

ではどうしてそんな事が起きるのでしょうか?

その答えの一つとなる興味深い研究成果が米国の研究者から発表されました。

「超加工食品を食べているとカロリー摂取が増え体重が増加する」との研究結果です。

超加工食品という言葉を初めて目にする方のために簡単におさらいします。

ブラジル・サンパウロ大学の研究者らが考案したNOVAという食品分類のグループ4のことで、食品の原材料にさまざまな添加物や通常の料理には使用されない素材を加え、高温や高圧などの工業的な加工工程を経て、食品の性質や形状を大きく変えたりした食品です。

例えば、調理済み食品(ピザ、ナゲット、ハンバーガーなど)、インスタント食品(麺、デザート類)、袋詰されたスナック菓子、清涼飲料水などが超加工食品にあたります。

研究では、青年ボランティア20人に、超加工食品の食事とそうではない食事を、制限なく自由にそれぞれ2週間ずつ食べて食事記録をつけてもらいました。

結果は、超加工食品を食べた人は、エネルギー摂取量が未加工食品(最低限の加工にとどめた食品)の人に比べて1日約500キロカロリー多く摂取して、2週間で平均0.9キロ体重が増えました。

非加工食品を2週間食べた人は平均0.9キロ減りました。

大柄な米国人を対象としていますのでそのまま私たち日本人に当てはまるわけではありませんが、話半分としても1年で10kgの体重増減になるので看過できません。

この研究では食欲ホルモンも調べられており、未加工食品を食べる期間には、食欲亢進ホルモンのグレリンの血中濃度が低下し、食欲低下ホルモンのペプチドYYが増加していました。

さらに食べ方にも違いがあらわれました。

超加工食品を食べたグループは未加工食品を食べたグループに比べて1分あたりに摂取する重量やカロリーが有意に増加していました。

これらの結果は超加工食品が、

① 食欲を増進させる 

② 早食いにさせる

この2つによって食事摂取量の増加を引き起こされたことがわかります。

超加工食品による健康障害

今日の日本ではどれほどの超加工食品が食べられているのでしょうか?

東京大学大学院医学系研究科の佐々 木敏教授らの日本人成人2742人を対象にした研究によると、平均して3~4割程度を超加工食品からのエネルギー(カロリー)摂取量が占めていることがわかりました。(2023年3月 東京大学プレスリリース)

この3から4割という数字をどのようにお考えでしょうか?

「多いなぁ」と思われているのかもしれませんが、むしろ私は肥満外来に受診される患者さんから伺うお話からすると少ない数字という印象です。

中には明らかにこの倍ぐらい食べていると思われる方もいます。

ではこの超加工食品は私たちの健康にどのような影響を及ぼしているのでしょうか?

まず、超加工食品の摂取量と死亡率の関係について、フランスの研究者らが行った大規模なコホート研究を見てみましょう。

この研究では、10年間にわたって4万人以上の成人の食事と健康状態を追跡調査しました。その結果、超加工食品の摂取量が10%増えるごとに、全死亡率が14%上昇することがわかりました。

特に、心血管疾患、生活習慣病や癌などの非伝染性疾患の死亡率が高くなる傾向が見られました。

次に、超加工食品の摂取量とうつ病の発症率の関係について、スペインの研究者らが行った別のコホート研究を見てみましょう。

この研究では、6年間にわたって1万人以上の成人の食事と精神状態を追跡調査しました。その結果、超加工食品の摂取量が10%増えるごとに、うつ病の発症率が11%上昇することがわかりました。

また英国では、超加工食品の消費が最も多い集団は最も少ない集団に比べBMIが1.6、ウエストが3.6cm大きく、肥満のリスクが1.9倍に高まることもわかりました。

超加工食品とのつきあい方

このような超加工食品がもたらす健康障害の背景には、その栄養学的な背景が関連していると考えられています。

超加工食品の4つの栄養学的特徴

1.砂糖の過剰

2.飽和脂肪酸(動物性脂肪、パーム油)の過剰

3.食塩摂取の増加

4.タンパク質・食物繊維・カリウム摂取の低下

このような特徴を有する超加工食品にたよっていると、過剰摂取を控えたい栄養素を取りすぎ、積極的な摂取が必要な栄養素が不足するというアンバランスが生じて、種々の健康障害を引き起こしていると考えられています。

では超加工食品に対して私たちはどのように向かい合えばよいのでしょうか?

この問いを考える時、私はスマートフォンのことが思い浮かびます。

スマホの健康に悪影響を及ぼす危険性が指摘されていますが、私たちはもはや手放すことはできない社会で生活しています。

同様にいくら健康障害に対して声を大にしても、もう超加工食品なしの食生活は考えられないでしょう。

スマホも超加工食品も現代社会に欠かせないものとなっていますが、その利便性の裏に潜む負の側面を常に意識して節制を心がけて使用することが大切でしょう。

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