生活習慣病というと、すぐに思いつくのは糖尿病・高血圧・脂質異常。
しかしそればかりではありません。
実は肝臓の生活習慣病もとても多いのです。
今回は健康診断の肝機能検査で異常を指摘された方、すでにメタボや生活習慣病を指摘されている方に向けて、肝機能検査の見方と肝臓の生活習慣病についてお話します。
肝臓の生活習慣病って何?と思われるかもしれませんが、脂肪肝という言葉はお聞きになったことがあると思います。
そうです、あの肝臓がフォアグラ状態になったものですね。
食べ過ぎと運動不足でカロリー過剰になると、内臓脂肪などの脂肪組織に脂として蓄えられます。
それでも有り余った脂は肝臓に蓄えられる。
これが脂肪肝。
脂肪細胞というのはただ単に脂肪滴が蓄積した細胞ではないのです。
脂肪細胞から実に多くの悪玉生理活性物質が放出されて、肝臓の細胞に障害を与えます。
すると肝細胞は壊れて、AST ALT、これらは GOT GPTということもありますが、肝細胞から血液中に吐き出されて上昇します。
AST、ALTとは、肝細胞の中にある酵素で、たんぱく質のもとのアミノ酸の代謝に関わっている酵素。
このような肝臓から酵素が逸脱している状態を肝機能異常と呼びます。
肝臓の働きは、
① 栄養分の代謝(合成と貯蔵)
② 有害物質の無毒化
③ 消化吸収に必要な胆汁の合成・分泌
これら3つの役割を果たします。
肝臓の重さはおよそ1から1.5kgあり、大変予備能力が大きい臓器。
ダメージを受けても残った細胞が働き機能を維持します。
「肝臓は沈黙の臓器」といって痛みなどの症状が出ることはあまりないので、肝臓に異常があっても気付かず、気付いたときには病気がかなり進んでいる場合も少なくありません。
脂肪肝は世界中で増加し、4人に1人と推定されています。
私の外来を訪れる患者さんでは、BMI25以上で50%以上、BMI30以上で85%に脂肪肝が認められます。
なんだ脂肪肝か!といって放置するとどうなるのでしょうか?
脂肪細胞は先程お話したように、周囲の組織に炎症を引き起こします。
このため脂肪肝の一部は、脂肪肝炎へ、しばらくすると肝臓が線維化してやがて石のように固くなる肝硬変に変化します(下図)。
すると肝臓の大事な3つの働きができない肝不全になったり、肝臓がんを発症することも!
肝臓の線維化・硬さを評価する指標があり、「Fib-4 index」と呼ばれます。
この指標は、肝臓の機能低下を示す数値と、年齢などにより、肝臓の硬さを「低値」「中間値」「高値」の3段階に判別するというものです。
Fib-4 indexは通常の血液検査で得られるAST、ALT、血小板数を用いて容易に計算することができます。
加えて脂肪肝を放置すると、肝硬変・肝臓がんと別の問題が発生することも!
脂肪肝があると、糖尿病のリスクが大きく上昇することです。
福島医科大学による研究では、脂肪肝のある男性の糖尿病の発症リスクは12.5%、女性では26.3%と報告しています。
さらに動脈硬化や心筋梗塞、脳卒中などの危険性が高まることも知られています。
なぜこのように動脈硬化性疾患のリスクが高まるのでしょうか?
肝臓に中性脂肪がたまると、それが血流に乗って全身の血管に運ばれます。
その結果血液中の悪玉コレステロールが増えてしまい、血管壁にコレステロールがたまり、動脈硬化をまねくことになります。
脂肪肝を予防するには、あるいは、脂肪肝になったらどう対処したらよいかについて5つ挙げます。
① 体重を減らす
体重を3から5%、80kgの人でいうと3-4kg減量するだけで肝機能は改善します。
体重を7%減らせば、ほとんどの人が正常化すると言われています。
② ファストフードを減らす
南カリフォルニア大学による研究では、肥満や2型糖尿病のある人が、1日の総カロリーの20%以上をハンバーガーやフライドチキン、ピザなどのファストフードからとっていると、脂肪肝のリスクを高めることを明らかにしました。
では日本人はファーストフードをどれほど食べているのでしょうか?
東京大学の研究では、30から40%のカロリーをファーストフードやレトルト食品、冷凍食品などの超加工食品から摂取していると報告しました。
ファストフードのみのデータではないですが、かなり危険なレベルですね。
③ EPA、DHAなどのオメガ-3系の不飽和脂肪酸摂取
シンガポールの医科大学での研究結果からご紹介します。
動物性食品を食べすぎないようにして、サバやイワシなどの青魚に含まれるEPAやDHA、アマニ油や大豆油などに含まれるオメガ-3系の不飽和脂肪酸を含む脂質を十分にとると、脂肪肝の予防・改善に効果的であることが示されています。
④ 質の良い十分な睡眠
脂肪肝をもつ5千人の中国人を対象にした調査によると、睡眠時間と、睡眠の質を改善しただけで、脂肪肝リスクが29%減少したと報告されています。
⑤ 運動
運動を開始すると、肝臓にたまった脂肪は遊離脂肪酸として放出され、運動のためのエネルギーになって燃焼されます。
肝臓で遊離脂肪酸が使われるのは、運動を開始して約10分後です。
1週間に250分以上、1日に換算して30分以上の早歩き、ジョギングなどの活発な運動を続けると、肝臓にたまった脂肪が減りやすくなります。
以上の5つが脂肪肝の予防と脂肪肝になった場合の対処法です。
最後に、ここでお話をした脂肪肝とは、正式には非アルコール性脂肪性肝疾患のことです。
非アルコール性脂肪性肝疾患、エネルギー過剰によりおきる脂肪肝ですが、これとは別にお酒の飲み過ぎで発症するアルコール性脂肪肝があります。
摂取する純アルコール(エタノール)換算で1日30g未満を非アルコール性、60g以上をアルコール性と定義されています。
しかし実際には両者の病態が重複していることも多く、完全に分けることは困難です。
ぜひ先程の5つに続いて6番目にお酒を控えることを付け加えて下さい。