糖尿病の初期症状をご存知でしょうか?
ああ、聞いたことあるよ、という方もいると思います。
① 喉が渇く
② トイレが近い(多尿・頻尿)
③ 体重減少
④ 手足のしびれ
⑤ 尿の泡立ち
この5つを挙げることが多いようですが、実は正しくありません。
これらは初期ではなく進行したときの症状です。
では、糖尿病の初期症状とは一体どんな症状でしょうか。
日本人の糖尿病有病者数はおよそ1,100万人。
これほどの数の病気にもかかわらず、糖尿病初期症状は正しく理解されていません。
今回は糖尿病初期症状として取り上げられる5つが初期症状といえない理由と、糖尿病を初期に発見するにはどうしたらよいかについてお話します。
まずはじめに喉の乾き、秒の回数が多い、体重が減る症状が、どのようにして出現するのかをご説明します。
血液中に含まれるブドウ糖を血糖と呼びます。
ブドウ糖は血液中の濃度が180mg/dl以上になると、尿中に排出されます。
尿中に排出されるとき、浸透圧の関係で体内の水分も一緒に外に出ます。
すると、体の水分が不足して、のどが渇いて水をたくさん飲みます。
これを多飲と呼びます。
多飲によりさらに尿量が増え、多尿に。
わたしたちが塩辛いものを食べすぎたとき、のどが渇いて多くの水を飲み尿量が増えるのと同様ですね。
そして、インスリンの量や働きが不足すると、からだの細胞がエネルギーとしてブドウ糖を利用することができなくなります。
すると、筋肉や脂肪を分解してエネルギーを作り出すため体重は減少します。
このような、一連の流れの中で、はじめに多尿や喉が渇くなどの症状が夜間にも出現するのは、空腹時血糖が180以上のときです。
空腹時血糖とは朝目が覚めたときの血糖。
空腹時血糖が180以上のというのは、HbA1cという糖尿病の指標では10%以上に相当します。
この指標は、健康な人は5%、糖尿病と診断されるのは6.5%以上。
ですから、糖尿病症状が出始めるHbA1c10という数字はかなり高い数値といえます。
体温でいうと40℃以上に例えられています。
同様に健康な人の空腹時血糖70-100 糖尿病の診断基準の空腹時血糖は126 と比較しても糖尿病症状が出現する空腹時血糖値180は大変高い数値であることがわかります。
つまり、喉の乾き、多尿、体重減少の症状が出現する時期は、糖尿病初期を遥かに通り過ぎているときです。
このため、症状が出現した時点ではじめて病院を受診すると、糖尿病専門医はインスリン治療の適応と判断します。
では、なぜこのように、かなり血糖値が上昇してから、病院に受診することになるのでしょうか?
これは糖尿病の進行様式に関係があります。
糖尿病にはその成因によっていくつかに分類されますが、ここでは生活習慣病の2型糖尿病について考えていきます。
2型糖尿病は慢性疾患であるため基本的に長年にわたって緩徐に進行していきますが、あるところから急に悪化していきます。
このため、昨年は糖尿病予備軍と言われていたのに、1年経ったらインスリンが必要となってしまった、ということもあるわけです。
このような現象を表した研究結果をお示しします(下図)。
この図は、毎年ブドウ糖負荷試験を行って、その2時間血糖値の経年変化をグラフに表したものです。
糖尿病を発症したグループは、糖尿病を発症しないグループに比べて、毎年わずかに血糖値が上昇していき、ある時点から急に上昇しています。
では、どうしたら本当の初期症状を見つけることができるのでしょうか?
これだという決め手には欠けますが、いくつかのポイントをご紹介しましょう。
1つ目は血縁者に糖尿病があることです。
これを、糖尿病の家族歴といい、症状ではないですが、2型糖尿病発症を予測する大切な情報です。
2型糖尿病は遺伝という要因の上に、生活習慣という環境因子が組み合わさって発病するものです。
2番目には、空腹感という症状です。
この空腹感とは、食事後3-4時間経過して出現する空腹感で、我慢していると気持ちが悪くなってつい食べ物を口にしてしまうという症状です。
だれもが空腹感を自覚することはありますが、糖尿病の初期ではインスリンが分泌はされていますが効きが悪い状態、つまり血糖が下がりにくい状態になっています。
これをインスリン抵抗性といいますが、時に健常者よりも多量のインスリンを分泌して血糖を下げようとします。
この過剰に分泌されたインスリンが遅れて効き目を発揮して、食後3.4時間して血糖が低下してきます(下図)。
このとき、強い空腹感、気持ち悪さを感じるわけです。
3つ目は体重増加。
空腹感が強いとつい食べすぎます。
体重が増加し続け、現在過去最高体重だと言う場合、糖尿病となっていることが多いと言われています。
糖尿病を発症すると、以後はブドウ糖が尿とともに排泄されるため体重は増加は停止し、やがて糖尿病のさらなる悪化に伴い体重が減少していきます。
まとめますと、糖尿病の家族歴がある人で、空腹感が強く、体重が増加し続けている場合は、糖尿病発症の可能性が高いので、生活習慣を見直す、健康診断を受ける、病院に受診するなどの対策を行っていただくことをおすすめします。
次に糖尿病の合併症の症状で、糖尿病内科を受診する場合。
糖尿病に特有な3大合併症は、神経、目、腎臓に症状が現れます。
一般に糖尿病の合併症は5年から10年以上血糖コントロール不良が続いた場合に発症します。
血糖コントロール不良というのは通常HbA1c7%以上、空腹時血糖値130mg/dl以上を指します。
ただし、これまでお話したように、糖尿病はいつ発症したかとても分かりづらいものです。
3大合併症が発症する順番は神経、目、腎臓の順番です。
し め じと覚えましょう。
受診の動機となる最も多い症状は手足のしびれです。
糖尿病で傷害される神経は、背骨と背骨の間から出て手足に分布する末梢神経の中で、最も背骨から遠い位置にある神経が、左右両方が対称的に傷害されるという法則があります。
背骨から最も遠い位置にある神経は、腰骨の間から出て足の爪先に分布する神経です。
この足先からしびれが発症するのが糖尿病性神経障害の特徴。
言い換えると、両足先が傷害されていない、あるいは左右どちらか片側性である場合は、糖尿病性の可能性は低いでしょう。
次に多い相談は排尿時の尿の泡立ちについてです。
尿の泡立ちの原因は色々ありますが、運動の直後や多量の汗が出た後、あるいは朝起きて1回目の尿は色が濃くなり、泡立ちが強くなることがあります。
また尿の勢いが強い場合や便器の状態によっても泡立ちが目立つこともあります。
この泡はすぐに消えることが多く、病気ではありません。
正常の尿の中には、ウロビリノーゲンという物質が微量に含まれています。
ウロビリノーゲンは泡を立てやすくする、界面活性剤の働きをします。
このため、尿が濃くなるとこのウロビリノーゲンの濃度も濃くなるため泡が立ちやすくなりますので、“尿の泡立ちが全て病気“というわけではないのです。
ただし、排尿後いつまでたっても細かな泡が消えない場合などは、病気が隠れていることもありますが、糖尿病で腎臓が障害されるのは、糖尿病になって10年から15年以上経過してからですので、糖尿病の初期症状ではありません。
以上が糖尿病を心配して相談がよくある症状です。
ほんとうの意味での糖尿病の初期はとても捉えにくいですので、糖尿病の家族歴、空腹感、体重増加に加えて、定期的に健康診断を受診して早期発見に努めましょう。